Trilogy Shows (2002年11月11日・12日 Tempodrom, Berlin, Germany)
写真提供：BlackGhosts、Cave of Black Ghosts"サイトより。

ついにベルリン入り。会場のTempodromはサーカスのテント小屋みたいな外観。キャパは3,500と少な目で、立ち見のアリーナ部分とバルコニー席に分かれている。もしかしたら普段はサーカスなどの出し物に使っているのかも。天井などとても高くて、空中ブランコとか軽く出来そう。7時少し前に入場開始。今日のチケットはスタンディングなので、アリーナ部分に急ぐ。ざっとステージ前をチェック、ヨーロッパ組の友人と別れ、Simonサイドの一番前を獲得。これから始まるライブに備え、水分も極力取らない。ビールも終わるまでは、我慢、我慢。このベルリン公演はヨーロッパ中のファン結集！って感じで、イタリア・ポーランド・ロシア、そして勿論英国からもやってきたファンで埋め尽くされている。私のポジションに割り込んで来ようとするフランス人グループもいた。ったく！

隣にいる女の子も一人なので、話しかけてみたところ、22歳のドイツ人で、学生。今回お友達を誘ったけど、他の子は彼女ほどキュアーに入れ込んでいないし、チケット代が高く（ちなみに30.77ユーロ＝約￥4,000）、一人で来るしかなかったとか…2000年のDream Tourも行きたかったが、やっぱりチケット代が高くて、一度はあきらめたんですって。でも当日、キュアーがステージに立っているかと思うと居ても立ってもいられず、会場まで行ってしまったそうな。彼女が着いた時、コンサートは始まって1時間ほどたっており、警備員の人に頼み込んだ所、何と中に入れてもらえ残りのショーを見ることが出来たんですって。キュアーに対する思いの深さがわかる様な、いい話でしょ。しかもこんなに若いファンがいるって事は、キュアーもまだまだ安泰ですよぉ。

8時15分頃、メンバーがステージに登場。1st set:PornographyはレコードどおりOne Hundred Yearsから始まる。この曲がオープニングに相応しいかどうかは疑問だけど、今回は通常のステージではない訳だから、どうこう言う余地はないよね。メンバーの出で立ちはハンブルグ同様みんな黒い服着用。Simonはスパッツではなくブラックジーンズ。心なしかメンバーの表情が硬い気がする。やっぱりカメラが回っているからかしら。私の目の前を観客撮影係りのカメラマンが、ハンディカム片手に行ったり来たりしていて目障りだったけど、ホールが狭いからかクレーンなどの大がかりな装置はなく、特に照明が明るいわけでもない。DVD撮影してます！的な特別さは全くなく、まるで普段通りのコンサートみたいなのも、なんだかとってもキュアーっぽい。2曲目はこの日駆けつけたファンの誰もがライブで聴ける事を嬉しく思っているA Short Term Effect。私もライブで聴くのは初めて。うぅ嬉しい…でも、この曲の間、ステージにも客席にも緊張した空気が流れていた気がする。このあとのThe Hanging Gardenも初めて（だと思う）。あまりライブで演らない曲だけど、両方共にしっかりと2002年のキュアーの音になっている。Siamese Twinsもいつも通り素敵。The FigureheadはDream Tourや夏フェスでは、ご当地ソングっぽく歌詞のAmerican GirlをGerman Girlにしたり、Australian Girlに替えて歌っていたけど、今夜はオリジナルのまま。私はこの曲をとても、とても愛しているので、そんな風に歌詞をいじられるのは、ちょっと…いや正直に言おう、すっごく嫌だったので、ひと安心。

1st setの間初めてこのアルバムを聴いたときの衝撃を思い出していた。よくまぁこんなアルバム作ってバンドが無事でいたなぁ〜と言うのが私の第一印象。あとでバイオグラフィーを読んで、分裂していた事、まるでお祓いをするみたいにPOPな曲をリリースした事を知り深く納得したもの。何かと引き換えにしなくては手に入らない類のクオリティと言うか、血を流さないと到達出来ない高みの様なものを感じる怒りに満ちた、でもその反面とても繊細で切ないアルバム。その中でも少し温かみが感じられるA Strange Day。このアルバム／セットでは、ギターのフレーズが印象的でいいですよね。泣けます。Coldもとても好きな曲、ライブで聴くたび喜びに打ち震えてしまう。特にイントロからRobertの歌が入ってゆくところなんかは…Pornographyはこの夜初めて聴くオーディエンスが多かったらしく、みんな息をつめる様に聴いている。曲が終わり20分の休憩。

Pornographyセットはあっという間に終わってしまったと言う印象が強い。曲数も少ないし、音もアレンジもオリジナルに忠実。私の立ち位置からはRobertが見づらかったので、彼のギターについては分からないが、Simonはこのセットの間フェンダーっぽいベース1本のみを使用。通常のステージみたいに楽器をあれこれ換える事なく、曲と曲のあいだにMCも入らず、淡々と1曲1曲こなしていくプロ軍団って感じ。空調がまったく効いてなかった会場は、タバコの煙で真っ白だし、もう暑くて暑くて。やっとブレイク中に風が入ってきて人心地ついた次第。あのままだと貧血で倒れていたかも。

休憩のあとはDisintegration。このアルバムはもう何百回と聴いている。一時期は文字通り毎晩繰り返し聴いていた。無人島にCDを1枚持っていくなら、間違いなくこのアルバムというくらい思い入れのあるもの。私がキュアーの海外追っかけを始めたのが92年のWish Tourからなので、このアルバムやEntreatを聴くたびに、（伝説の）Prayer Tourに間に合わなかった事を何度悔やんだろう。それがまさか2002年になって再現されるなんて、この期におよんでも信じられない。本当に夢にも思わなかった。

2nd set: Disintegrationの始まりは、鐘の音がなり、Plain Songから。Robertはいつも通りステージ上を静かに歩いていく。 その姿を見ただけで、泣いてしまいそうなファンが沢山いそう。バルコニーの観客は自分たちの席を離れ、少しでもRobertに近づこうとフェンスの所まで来て手を振ったりしている。厚くて綺麗な音。押さえられたRobertの歌声。このセットのあいだは、なんだかずっと夢の中にいたみたいで…初めて生で聴くClosedownやLast Dance、96年のマンチェ以来のThe Same Deep Water as Youもみんなみんな綺麗で切なくて、あらためてアルバムの完成度の高さを感じる。Simonはかための音がでるやや大きめのベース（Peter Hookと言うらしい）1本だけで全曲こなしていた。

このセットが終わり休憩に入ると、自分のポジションを離れるオーディエンスの移動の波。やはりこの2枚のアルバムに集中していたファンが多い様だ。20代の若めファンはPornograhpyにたっぷりと思い入れがあり、年長組のファンはDisintegration、と棲み分けを感じる。

3rd set: Bloodflowersの曲はDream Tourや夏フェスでかなりの回数聴いたし、通常のコンサートならば次に何を演奏するか分からないのが楽しみでもあるが、今回は決まった曲を順番通りに演奏して行くスタイルだし、残念ながらBloodflowersは超お気に入りアルバムとは言えないので、そのあたりどうだろう、退屈するかも…などと心配していたのだが、いざ始まってみると、そんなの全然杞憂に過ぎなかったと感じさせるほどバンドの演奏が素晴らしかった。正直このセットでの演奏が一番パワフル。現在のキュアーが等身大で表現されているからなのかも知れないけど、とにかくメンバーみんなとても乗りが良かった。しかし、スゴイよね、その前にアルバム2枚分演奏しているのに、どこにそんなパワーがあるのだろう。Watching Me Fallは会場全体を圧倒して、音も大きい。このセットの間中彼らの偉大さを見せつけられている様な、もう開いた口が塞がらない状態。かなわないや。こうやってライブで全曲通しで聴くと、かなり大人しいアルバムなんだと感じた。ロバちゃんも大人になったって証の様なアルバムかな。それにDream Tourから2年しかたってないのに、Where the Birds Always SingやThe Last Day of Summer, There is No If...などの曲をとっても懐かしいと感じたのがけっこう新鮮な驚きだった。

3セット、ばっちりこなして、尚かつアンコールまでやってしまうキュアー。信じられない。本当にすごいとしか表現出来ないわ。指とか痛くならないのだろうか。すべてが終わり、時間はすでに夜中の12時半。ブレイクも含めて4時間プラスαのライブ！1st setから3rd setまでキュアーの成長の過程を追体験した様な濃密な時間を共有した貴重な一夜だった。